
今回訪ねたのは、岐阜県郡上八幡の実力ある工房。
知恵と経験豊富な手仕事の温もりに最先端の技術を融合させて、さまざまなアイデアを形にしています。
「お客様が満足する製品を届けたい」という一途な思いで、技術改良とチャレンジを繰り返してきた実績豊富な工房の様子をご覧ください。
50年、木と向き合い続けるということ
天然の木材は、一つひとつに個性があり、湿度や温度で常に変化します。
そんな扱いが難しい素材を、工業製品としての「精度」を保ちながら量産するには、
機械の力だけでなく、それを見守る職人の「目」と「感覚」が不可欠です。
先代から受け継いだ知恵を大切にしながらも、現代の暮らしにフィットする新しい技術を柔軟に取り入れる。
そのひたむきな姿勢が、50年という長い歳月を支えてきたのだと感じます。
最新鋭の目と、からくり仕掛けの知恵
工房を歩いていて驚かされるのは、新旧織り交ぜられた機械の数々です。
ミリ単位の狂いも許さない最新鋭の加工マシンが稼働する傍らで、
何十年も工夫を凝らして作り上げたという「からくり仕掛け」のような古いマシンが、
今も現役で独特の音を立てています。
今や交換する部品も製造されておらず、機械の手入れや部品交換すらすら自らの手で行っているそうです。
ですが、この幅広い設備があらゆる加工を可能にしています。
「どんなに難しいリクエストでも、知恵を絞って形にする」。
そんな職人魂が、自社製品だけでなく、多くのOEM(受託製造)を支える信頼へと繋がっています。
一見シンプルに見える「森のささやき」といったおもちゃのパーツ一つひとつにも、
実はこの工房独自の高い切削技術と、スムーズな動きを実現するための緻密な計算が隠されているのです。


精度が奏でる、心に届く「森のささやき」
ここで制作される製品の中でも、特に自信を持っておすすめしているのが「森のささやき」シリーズです。
このシリーズの最大の特徴は、その名の通り、木が奏でる「音」にあります。
車を動かすと優しいメロディが流れるオルゴールカー。
この「木の音色」を美しく響かせるためには、木材の乾燥具合、
パーツ同士の噛み合わせに、0.1ミリ単位の妥協のない精度が求められます。
「音がきれいに響くということは、それだけ正確に作られている証拠なんです」と言われます。
最新鋭の加工マシンがミリ単位で削り出した車の土台。
「からくり仕掛け」のような機械から生まれるやさしい丸みのタイヤ部分。
さらに仕上げに職人が木の目をみながら下処理をしたり独自の治具を使い、
五感を研ぎ澄ませて組み上げていきます。
最新技術とアナログな知恵が融合して初めて、子供たちの心に寄り添う澄んだ音が生まれるのです。


職人の指先が作る「究極の滑らかさ」
「森のささやき」を手に取って驚くのは、吸い付くような肌触りです。
パーツ一つひとつの表面を磨き上げ、角を落とす「面取り」の工程。
「赤ちゃんが初めて触れる木の感触が、優しく、温かいものであってほしい」。
その思いは、自社工場で一貫生産を行う「ワンストップ体制」だからこそ、細部まで貫かれています。
自分たちが作ったものに最後まで責任を持つ。
使い手からの声に耳を傾け、修理やケアなどのアフターフォローにも力を入れる。
「納品して終わり」ではなく、そこから長く愛される道具であってほしいという願いが、
その丁寧な仕上げの細部にまで宿っています。
「遊ぶ」ことで育まれる、五感の記憶
「森のささやき」は、ただの木のおもちゃではありません。
木の重み、鼻をくすぐる天然木の香り、そして耳に心地よい澄んだ音。
子供たちは遊びの中で、五感すべてを使って自然の温もりを吸収していきます。
シンプルでありながら、どこかモダンで洗練されたデザインは、現代のインテリアにも馴染み、
世代を超えて受け継いでいける「一生もの」の風格を備えています。
取材を終えて
イチシマの工房を訪ねて見えてきたのは、木工という伝統を「進化」させ続ける強さでした。
50年の経験に裏打ちされた安心感と、新しいものへのワクワクするような遊び心。
その両方が共存しているからこそ、私たちの暮らしにスッと馴染み、使うほどに愛着が湧いてくるのでしょう。
こうした国産の質のいい玩具や木製品を作る技術は使う人がいてこそ次代に繋いでいけます。
「つかいて」も「つくりて」とともに、次の世代につなげていきたいと思います。


